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「正直不動産」から学ぶ ― 日本における3種類の媒介契約

最新情報:2025年8月22日

不動産をテーマにした、エンターテイメント性がありながら教育的な人気マンガ・テレビドラマです。

『正直不動産』は、2017年に連載開始された日本のマンガ作品で、これまでにNHKで2シーズンの実写ドラマ化、さらには劇場版スピンオフまで制作されています。

単なる娯楽作品にとどまらず、不動産取引に役立つ知識や実践的なヒントを学ぶことができる作品です。

嘘をつけない不動産営業マン

マンガや日本のドラマが好きな方におすすめしたいのが、三津井博(原作)、大谷アキラ(作画)、夏原武(企画)による『正直不動産』です。英語では The Honest Realtor とも訳されています。 物語は、登坂不動産のトップ営業マン・永瀬財地(ながせ さいち)が主人公。彼は建設現場で石碑を壊してしまったことをきっかけに、不思議な呪いをかけられ、「一切嘘をつけない」という状況に陥ってしまいます。コメディタッチで描かれていますが、不動産業界の裏側やリアルな営業現場の様子も知ることができる作品です。

新人営業マンであり「お客様第一」を信条とする月下咲良(つきした さくら)と共に、ライバル営業マン、建設会社、銀行員、そしてそれぞれ異なる事情や課題を抱える多様なお客様とのやり取りを通して物語が展開していきます。

本作はNHKおよびAmazon Prime(英語タイトルは The Honest Realtor として配信)で視聴可能です。私は全2シーズン(「ミネルバ編スペシャル」を含む)を楽しく拝見しました。不動産に興味がある方はもちろん、気軽に楽しめるドラマをお探しの方にも強くおすすめできます。娯楽作品として楽しめるだけでなく、不動産の基本的な仕組みがわかりやすく紹介されており、実務にも役立つちょっとしたヒントを得られる点も魅力です。

この連載記事では『正直不動産』を題材に、不動産に関する基本的な知識をいくつかご紹介していきます。今回は第1シーズン第2話に登場する、不動産取引における最も基本的な概念のひとつである「3種類の媒介契約」と、それぞれについて知っておくべきポイントを解説します。

シリーズの主人公・永瀬財地は、自身が売却した空き地にあった謎めいた石碑を壊したことで、嘘をつけなくなってしまったことに気づきます。 出典:NHK『正直不動産』

3種類の媒介契約

第1シーズン第2話では、永瀬と月下が、自身の不動産を売却しようとする新規顧客に対し、3種類の媒介契約について説明する場面があります。この記事では極力ネタバレを避けますが、物語の一部に触れる内容を含みますので、これからドラマをご覧になる予定の方はご注意ください。(ただし、当サイトの他の記事もぜひご覧いただければ幸いです 😉)

永瀬が媒介契約の種類について説明するシーン。 出典:NHK『正直不動産』

売主が自分の不動産を売却しようとする際には、「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」のいずれかを選択することになります。それぞれの契約形態にはメリット・デメリットがあり、売主自身の状況に応じて最適な契約を選ぶことが重要です。

  • 一般媒介契約 - この契約形態では、売主は複数の不動産会社に同時に仲介を依頼することが可能で、売主にとって最も自由度の高い契約となります。販売活動を自らコントロールしたい、特定の不動産会社に依存したくないという売主に適しています。なお、この契約では不動産会社に販売活動の報告義務はありません。

    また、売主自身が買主を見つけ、仲介会社を介さずに売買を成立させた場合(いわゆる「自己発見取引」や「直接取引」)には、仲介手数料を支払う必要がありません

    さらに、日本の不動産流通機構システム「REINS(レインズ)」への登録も任意となっています。そのため、売却の事実を広く公開したくない、たとえば近隣住民に知られたくないといったプライバシー上の理由がある場合には、この契約形態を選ぶ方法もあります。

    REINS(レインズ):国土交通省が指定する「不動産流通標準情報システム(Real Estate Information Network System)」

  • 専任媒介契約 - この契約形態では、売主は特定の一社の不動産会社のみを仲介業者として指定します。契約締結から1週間以内に不動産会社は物件をREINS(レインズ)に登録する義務があり、契約期間中(最長3か月)には2週間に1回以上の販売活動状況の報告が求められます。物件が契約期間内に成約しなかった場合は、契約を更新するか、他の仲介業者に変更することが可能です。また、売主自身が買主を見つけて売買を成立させる「自己発見取引」も認められています。

    この契約は、販売活動を不動産会社に委託しつつも、自分の人脈や独自ルートを活かして買主を見つける柔軟性を残したい売主に適しています。
  • 専属専任媒介契約 - この契約形態は専任媒介契約とほぼ同じですが、売主による「自己発見取引」が認められない点が大きな違いです。その代わり、不動産会社にはより積極的で手厚い販売活動が期待されます。具体的には、契約締結と同時に物件をREINS(レインズ)へ登録する義務があり、販売活動状況の報告も毎週行わなければなりません。

作中では、3種類の媒介契約について簡潔に解説がなされています。 出典:NHK『正直不動産』

どの契約形態が最適か?

当然のことながら、顧客は永瀬と月下に「どの契約形態が一番良いのか」と尋ねます。永瀬は心の中で考え、自分が嘘をつける立場であれば専任契約や専属専任契約を勧めたであろうと反省します。しかし、「神風」によって常に真実を話さざるを得ない状況のため、永瀬は一般媒介契約を勧めます。その直後、永瀬はスタッフからの電話対応のため席を外さなければならず、顧客は月下と二人きりで対応することになります。

顧客が永瀬の電話対応中に月下に質問するシーン。 出典:NHK『正直不動産』

ここでドラマが展開します!ライバル営業マンの桐山隆久が、「お茶をお持ちしました」との名目で現れ、永瀬から顧客を引き抜こうとします。桐山は、「自分なら専任契約や専属専任契約を勧めた」と話します。

永瀬が電話対応を終えて戻ると(電話の相手は誰もいなかった)、顧客はすでに桐山を選ぶことに決めていました。理由は、永瀬が正直に話していないと感じたからです(皮肉なことに)。さらに、後で判明したのは、実は最初から桐山が永瀬に電話をかけ、隙を作っていたということ。なんとずる賢く巧みな営業マンでしょう!

ライバル営業マンが隙を狙うシーン。 出典:NHK『正直不動産』

桐山が永瀬の顧客を引き抜くシーン。 出典:NHK『正直不動産』

「お客様第一」― 視点の問題

物語にスパイスを加えるために、同じ不動産会社内にライバル営業マンを登場させたのは、特に斬新な展開ではありません。しかし、『正直不動産』の魅力は、桐山の意図を知ることでキャラクターが単純な善悪では語れない多面性を持っている点にあります。

その後、永瀬と月下はオフィスの屋上で「悪役」桐山に向き合います。月下は、永瀬が顧客にとって最善を考えて一般媒介契約を勧めたのだと説明します。

一見すると、複数の不動産会社と自由に取引できる状況は、顧客にとって最も有利に思えます。複数の仲介業者が物件を販売することで販売のチャンスは広がり、1社に依存するよりも良い選択肢のように見えます。

しかし、桐山は月下に対して「それは甘い」と一喝し、実はこれが顧客にとって最善の方法ではないと指摘します。ここで、桐山が考える不動産会社の視点が描かれます。まず、桐山は永瀬を非難します。一般媒介契約を勧めたのは、専任契約や専属専任契約の方が会社にとって有利で、物件が成約すれば仲介手数料が確実に入るからだというのです。そして、不動産業界の正直な現実として、「一般媒介契約では仲介業者は熱心に働かない」という事実を突きつけます。

シリーズでは、不動産の概念をわかりやすく説明するために役立つグラフィックが頻繁に使用されます。ここでは、桐山が不動産会社にとって専任契約が一般媒介契約より好まれる理由を説明しています。 出典:NHK『正直不動産』

桐山が、一般媒介契約が顧客および不動産会社にとって望ましくない理由を自身の視点で解説するシーン。補助的なグラフィックも解説に役立っています。 出典:NHK『正直不動産』

一般媒介契約の現実

  • 一般媒介契約のみで取引される物件は、仲介業者にとってリスクを伴います。なぜなら、仲介業者が時間と労力をかけて販売活動やマーケティングを行っても、他の業者が先に買主を見つけてしまえば、仲介手数料を得られないからです。つまり、これまでの努力が無駄になる可能性があります。
  • 例えば、不動産写真や物件広告などの販促活動も、他の業者に容易に利用され、利益をもたらす場合があります。1社の仲介業者が時間をかけて物件を魅力的に見せるためのマーケティングを行ったとしても、別の仲介業者が買主を連れてくれば、仲介手数料はそちらに入ることになります。
  • さらに、一般媒介契約には販売活動の報告義務がないため、仲介業者は通常、手数料がほぼ確実に見込める専任契約や専属専任契約の物件を優先して扱う傾向があります。

桐山は、一般媒介契約を勧めることは、実は顧客のためになっていないと主張します。複数の不動産会社と契約できるとはいえ、現実には物件が優先されず、十分な販売努力がなされないため、成約に至らない可能性が高いというのです。

確かに一理あり、改めて考えると「顧客にとって最善とは何か」という視点が変わってきます。そのため、どの契約形態を選ぶかは単純ではなく、売主自身の状況やニーズを踏まえて判断することが重要です。

バーチャルツアーについてはどうでしょうか。ドラマではトレンドにも敏感で、今後のエピソードでもこの点が描かれています。 出典:NHK『正直不動産』

今後も、このテレビシリーズから学べる不動産に関するレッスンについての記事をぜひチェックしてください。 出典:NHK『正直不動産』

😊 当社の視点

SHIBUYA360°は、まず第一に「撮影の専門家」であり、不動産写真撮影やバーチャルツアー制作サービスを通じてこの重要な業界により良いサービスとサポートを提供できるよう、不動産市場をより深く理解することに努めています。

ドラマで描かれた視点と同様に、どの契約形態が常に優れているかは一概には言えません。売主それぞれの状況や考慮すべき要素によって最適な契約は変わります。 早く売却したいですか? 近隣に売却していることを知られたくないですか? すでに信頼できる不動産会社があり、その会社が全力で販売活動をしてくれると確信していますか?

当社では、不動産写真やバーチャルツアーを活用した物件プロモーションを行っているため、以下の点を考慮することをおすすめします:

  • 専属専任媒介契約を選ぶ際は注意が必要です。なぜなら、この契約では売主自身が見つけた買主(自己発見取引)に対して売却することができないからです。自身のネットワークを活用して物件を売りたい可能性がある場合は、柔軟性のある契約の方が適しています。しかし、これを想定しておらず、販売活動を100%仲介業者に任せたい場合には、専属専任媒介契約は良い選択肢となるでしょう。

  • 専任契約や専属専任契約を選ぶ場合は、契約のロックイン期間(3か月)を確認してください。サービスや販売進捗に満足できない場合は、専任契約から一般媒介契約に変更することも可能ですし、同じ不動産会社と契約を更新して引き続き進めることもできます。
  • 契約を検討している不動産会社の過去および現在の物件掲載状況を確認しましょう。質の高い不動産写真を使用して物件を効果的にプロモーションしているかをチェックし、契約する場合にどのように物件を宣伝する計画かを確認することも重要です。
  • 一般媒介契約を利用する場合は、不動産会社が物件の販売に最小限の受動的な努力しか行わない(あるいは全く行わない)可能性がある現実を考慮する必要があります。その場合は、不動産写真や360°バーチャルツアーを独立のサービスプロバイダーに依頼して作成し、各不動産会社に提供することで、品質の高いプロモーション素材を確保しつつ、複数の不動産会社の販売ネットワークを活用することが可能です。

どの契約形態が最適かは売主の状況次第です。物件のプロモーションに関して不動産写真やバーチャルツアーを活用した相談をご希望の方は、ぜひお気軽に当社までお問い合わせください。

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